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2005年9月25日 (日)

アルスラーン戦記

 アルスラーン戦記の11巻「魔軍襲来」がようやく発売となった。10巻発行の後に出版社が角川書店から光文社に変更となり、数年の間隔を空けての発行である。どの様な事情があったのかは知らないが、角川文庫から発行されていた物が、光文社に移行し、1巻から10巻までを五冊にまとめて再版し、ようやく11巻として、カッパノベルズ版としては六冊目にして11巻という奇妙な形式での発行である。

 私のお気に入りの作家である田中芳樹氏の人気シリーズであるのだが、初めて読んだのは87年か88年のことである、当時既に5巻までが出版されていたように記憶している。つまり20年近く続く人気シリーズである。中世ペルシャをモデルとした架空の歴史物語、ジャンルとしてはヒロイックファンタジーと呼ばれる剣と魔法の物語だ。解放王と称されるアルスラーンの波瀾万丈に満ちた物語の中で、ここ数巻は魔物との闘いが前面に現れている。人智を尽くして魔道の者達との間での闘いが繰り広げられているのだ。俗に剣と魔法の物語と言われる分野なのであるが、主人公の側は魔法・魔術と言った非科学的な物は一切使わない。普通のヒロイックファンタジーが魔導師などを味方にして戦うことが多いのと違い異色の物である。

 アルスラーン戦記の中において、魔導師とは常に忌むべき存在として描かれている。ある意味宗教その物が、キリスト教の排他性と十字軍ををモデルとするイアルダボート教の侵略にたいする抵抗から始まるために、敬虔なクリスチャンの中にはこの作品を毛嫌いする人々がいるようだ。これは作者が何の機会であったかエッセイの中で述介している。実は私のような無神論者にとってはそこが嬉しいのである。マルクス曰く「宗教とはアヘンである」現実世界の苦しみを一時忘れさせる麻酔薬としての効能はあるが、実際の病気治療には一切役に立たない存在としての宗教の本質を、この小説は描き出している。

 「魔との戦いに、パルスの神々は、人に力を貸してくださるのか?」「神々はあてにせんことだ。」「カイ・ホスロー王も、ご自分の知略と勇気とで、蛇王ザッハークを打倒なさった。神々が激励してくださったとはいうが、激励なら人でもできることだ。いっそ神々などおられぬと思っていた方がよいかもしれん」「おれは思うのだがな。神々が実在しないとすれば、人は自力で魔と戦うしかない。そして人は魔に勝てる」「人の世はこれまでつづいてきた。それこそが何よりの証拠だ。人が魔に勝てるという事実の」

 今日の資本主義の帝国段階の矛盾を「魔」と置き換えたときに、人類の英知は必ず戦乱の世を平和な世界に変えることが出来るのではないかという、ささやかな希望を、私は作者のメッセージとして受け止めている。

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コメント

 NKさんがこの様な娯楽小説に関心を示されるとは思ってもいませんでした。作者の後書きでは古代ペルシャとイスラム以降のペルシャはある程度知られていても中世のペルシャは日本で馴染みが救いので、その分自由に創作できると書いていたように思います。人名については作者が取材に言った際に現地の電話帳を破ってきてそこに載っている名前からかっこよさそうなものを選んだとありましたので、クルジュ・アルスラーンがモデルなのかどうかは分かりません。少なくともこの作者は資料を丹念にあさる人でして、歴史上の人物から名前を取っている可能性はあります。ただセルジュークトルコであってもペルシャ系の諸侯だったのかも知れません。

投稿: アッテンボロー | 2005年9月29日 (木) 21時54分

アルスラーンという名前ということは、トルコ系の人物ということになるのでしょうか。たしか十字軍時代のはじめごろセルジュークトルコの諸侯でクルジュ アルスラーンという人物が小アジア十字軍と戦った最初のムスリム側の英雄であったと何かで読んだ記憶があります。

投稿: NK | 2005年9月29日 (木) 21時37分

 くまさん初めまして。トラックバックとますコメント有り難うございます。宜しかったらまたお越し下さい。

投稿: アッテンボロー | 2005年9月28日 (水) 04時44分

これはまだ読んでなくて、読んだのは『銀英伝』と初期短編と『創竜伝』五巻までなのですが、たまたま関連記事(^^;)を書いたので、トラバさせてもらいます。

投稿: くま | 2005年9月28日 (水) 01時58分

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